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【ヒロアカ/勝デク文】 強者 と 弱者


今週の勝デクのそれぞれ抱えている感情が衝撃的過ぎたので
自分なりに整理してみた
今週のジャンプネタばれなので注意です。

つづきからどうぞ









「負けた方がましだ」

耳を疑う言葉に、僕は思わずその頬を殴りつけた。
どんな暴力よりも、蔑みの視線や言葉よりも、それは酷く僕の心を抉るものだったから。

「負けた方がましだなんて、君が言うなよ」

口から出た言葉は、きっと自分のためだった。僕が羨んだのは、彼の持つヒーロー向けの強力な個性だけではなく、勝利に、強者であることにこだわり実現していくその勝ち気な性質と絶対的な自信だった。それは時に周りを、僕も含めて傷つけるものだったことは否定はしないが、それでもヒーローに憧れつつ無力だった僕にとっては、眩しいものだった。それ故に辛うじて自分を納得させることが出来たのだ。

かっちゃんは嫌なやつだけど凄い人でもある。
だからヒーローになれるんだ、と。

精神的にも身体的にも、付けられた傷は数え切れない。例え綺麗に消え去ったように見えても、僕の中に、深く深く刻み込まれていた。どんなに彼を凄いと認めたところで、それは彼への嫌悪として表れる。かっちゃんだってそれは分かっている筈で、それなのにわざとらしく、時にまた嫌みを吐く。僕は彼にとってとるに足らない存在であったけれど、弱者の中でも最弱な「無個性」でありながら、彼と同じ夢を持つ僕は、強者であるかっちゃんには目障りだったのだろう。同級生のほとんどが同じ夢を抱いているにも関わらず。まるで玩具を自慢する子供のように、その個性を見せつけて、何も持たない僕の、小さな正義感を貶した。それは酷いことだと分かってはいたけれど、それでも彼を羨むことは止められなかった。自分を絶対だと信じて疑わないその自信は、溢れる才能と、たゆまぬ努力が培ってきたものだということを、知っていたから。

それは僕が、到底得ることのできないものだった。
個性もなく、努力するためのスタートラインに立つことすら出来なかった僕は、常に劣等感に苛まれていた。ヒーローや敵の分析以外は、夢見ることしか出来なかったことは自覚していたし、優秀な幼なじみを見れば見るほど、その事実は現実味を帯びて僕に警告を鳴らす。
この世界は個性があることが、前提となる世界だ。ましてやヒーローは、その個性を生かして、敵とどう戦い、どのように救うのか、問われる存在である。無個性など、求められてはいない。何を見ても何を読んでも、あるのはまず第一に、自らの個性と向き合い、その努力の仕方を決定付けること。無個性がどのように努力すればいいかなど、どこにも書いてないし、誰も教えてはくれない。

勝己のもつその自分が絶対だと思う感覚は、出久には理解ができないものだった。自分はどうしても、他者の意見を気にしてしまうし、放っておくことは出来ない。それが自らの劣等感故なのか、もともとの気性のせいなのか、よくは分からない。勝己の全てを肯定することは到底出来ないし、他者を虐げる精神は嫌悪すら沸く。それでも、理解できないからこそ、その姿勢を貫くことが出来る勝己を、羨ましく思う。

彼に劣らぬ強力な個性を得た今もやはり、それは変わらない。僕が羨んだのは、その揺るぎない自信と信念なのだから。それが無いのなら、出久の中で残る彼への感情は、嫌悪でしかない。それは、出久にとって許し難いものだった。

例えどんなに嫌悪を抱く行いをしたとしても
君が君のままでいること

それだけが、自らを虐げ続ける彼を、今もなお追う、ただ一つの羨望の理由なのだから。




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「負けた方がましだなんて、君が言うなよ」

また、刻みつけたくもない言葉を、出久から突きつけられてしまった。
脳内に繰り返される先程の言葉と、出久に抱えられているという屈辱的な体勢のせいで、勝己は言葉を発する余裕さえ失っていた。

出久は知らないのだ。
自分がどれだけ、爆豪勝己にとって厄介な存在であるかなんて。

絶対的な自信は、他者を省みることなど必要としない。誰よりも強くあり、賢くあり、目的に向かいひたすら突き進むこと。それが勝己の生き方だ。今は敵わない相手も、自分が経験を積む努力を怠らない限り、いつか追い越すことが出来るという自負があった。足らないものは学び、補えばいい。彼らとの間にあるのはただ知識と経験の差でしかないのだから。

けれど、緑谷出久が持つものは、勝己には到底理解できないものだった。どうして力もないのに、他者を、しかも一番嫌悪しているであろう俺を、助けるようとすることが出来るのか。どうして他者のために、一番に自らを犠牲にする事が出来るのか。勝己には理解が出来なかったが、する気もなかった。馬鹿らしいとすら、思っていた。

勝己は弱者であるということが、どういうことなのかを知らなかった。臆病な同級生も、生意気な上級生も、横柄な先生達も、誰も勝己にとっての強者ではなかったから。為す術もなく、他者に虐げられる恐ろしさなど、知らなかった。
あのヘドロ事件までは。

纏わりつく不愉快な感触から、逃れることは出来なかった。周りの見物人は遠巻きに見ているだけで、ヒーローですら個性の相性を理由に立ち止まっていた。なのに、最初に動いたのはよりにもよって、あの馬鹿にしていた幼なじみだった。

弱者であることを知らなかった時、出久の行動は常に滑稽で煩わしく見えて、嘲笑を生んだ。けれど一度味わったあの不安は、その行為の見る目を変えてしまった。

「大丈夫?立てる?」

幼い日、漠然と感じた苛立ちを思い出す。
きっと本当は、あの頃から知っていたのだ。
緑谷出久は、爆豪勝己のルールには当てはまらない。彼との間にあるものは知識でも経験でもない。ましてや個性の有無などでも。もっと別の何かで、それは勝己にとっては理解のできないものであり、その点において、勝己は出久に到底敵わない。そしておそらく、それが世間一般のヒーローではなく、オールマイトのような、真にヒーローと呼ばれるものが備え持つものだということを、勝己は微かに感じ取った。

けれど、それは許容できないものだ。
自らの基準の中で一番の弱者である出久が、勝己よりも上だなんてことは、あってはならない。強すぎる自尊心は、それを拒否するしかなかった。認めれば、自分を支えていたものが、すべて崩れそうな気がしたから。自ら理解できないものは、恐ろしさを生む。出久を直視することも、許容することも、理解しようと努めることさえ、恐ろしく感じた。出久は勝己の生き方に、信念に、自信に、不安と惑いを投げ込む存在となった。

雄英に入り、出久に個性があったことを知って驚きはしたが、それは出久への恐れとは関係のないものだ。ただ出久が、自分と同じステージで戦う手段を、手に入れたに過ぎない。そして俺は、そこではけして、出久には負けてはならないのだ。自らのルールの上ですら出久に負けることなど、勝己には許し難かった。例え、他の誰に負けたとしても、その方がましだと思えた。その相手は、理解できない恐れを抱かせる幼なじみではなく、いつか敵うであろう、格上の存在なのだから。

自分の信念を曲げてでも出久を拒否して、そう思い込むことが、自らの自尊心を守る唯一の手段だった。


それなのに、それすら出久は許さない。俺が諦めることを、信念を曲げることを許さない。出久のせいで投げかけた信念を、また再び出久の言葉で思い出すというのは、あまりに滑稽に思えた。

悔しさに顔が歪む。
けれど、そう、強者でいるために、常に勝ち続けること、そのための努力を惜しまないこと、それが俺だった。揺らいだのはお前のせいだと、つい口にしたくなったが、そんなことを思ったなどと、出久に知られる訳にはいかない。

それは、他者を顧みない勝己を、言葉一つでこんなにも揺さぶることが出来るのは、お前しかいないのだということを、認めることに他ならないのだから。



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みみっちいな、と出久は思う。

出久にとって勝己はまだまだ、敵わない存在だ。オールマイトにすら勝つ気で挑もうとするその姿勢は、理解しがたいけれどやはり凄いと素直に思う。
なのにそれを、ただ出久と組みたくないなどと、子供のような理由で簡単に放棄してしまえるのは、本当に勿体ない。彼の中では強者にすら勝つという信念より、出久のような弱者に負けないことを優先してしまっている。そんなみみっちい勝己は、出久が羨んだ彼ではない。
だからこそ出久は、きっと自分だけでは出来ない決断を下す。

「勝とうよ、かっちゃん」

僕にはオールマイトに勝てるなど、むしろ戦いを挑むことすら、想像も出来ない。彼は僕の中で、夢も希望も全て与えてくれた、ただ一人の最高のヒーローであり、師なのだ。
けれど君がいるのなら、君が勝つのを諦めないというのなら、僕はそれを信じることが出来る。
そんな君を、ずっと追いかけて来たのだから。

「…………当然だっ!」

少し、間を空けてから、かっちゃんは答えた。
彼はあの日のように、酷く苛立ったような、泣きそうな顔をしているけれど、やっといつもの横暴で自信家で、強い彼を、少し取り戻したような気がした。

「かっちゃん。僕は何をすればいい?」

今までそらし続けたその瞳を見据えて、今、僕は問う。




end.
151023
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